苦労を買うのをやめた話

「苦労は買ってでもしろ」というのはよく人生の先輩から若い人への金言として使われる言葉だ。

 

大学を卒業して就職活動をしていた頃、私の仕事探しの軸はその言葉によるところが大きかった。

「人生とは常に何らかの高い壁を見つけて向き合い、それを乗り越えていくことだ。そうして完璧な人間に辿り着かなければならない。」というのがこの頃の私の人生論であった。つまり完璧主義の自己肯定感爆低人間であった。これは同じく完璧主義自己肯定感爆低人間な母に育てられたところが大きい。

 

さて、就職活動にて「この仕事で自分の苦手を克服して完璧に近づけるか?」で選んだ会社は、ベンチャーの人材派遣会社だった。大人しく内向的な性格で人付き合いが苦手だったのにあえてゴリゴリの新規開拓営業を選んだ。入社する前から、苦労するのは目に見えていた。でもそれまでが積極的に苦労を買って努力することで親や先生から褒められ認められてきた人生だったので、この選択に疑問を持つことはなかった。

 

しかし結果は惨憺たるものだった。体を壊し、精神を病んで3年で仕事を辞めた。おそらく精神科に行けば何かしらの病名が付いたと思うが、そもそも外出できる状態ではなかったので行かなかった。一睡も寝ることができなくなり、顔には帯状疱疹ができ、内臓が弱っていたのかほとんどの食べ物でアレルギー症状が出るようになったので毎日塩をペロペロするだけで乗り切っていた。市の相談所から定期的に「生きてますか!?」と生存確認の電話をいただく始末であった。

結局、なんとか再び仕事ができるようになるまでに1年間の療養を要した。それでも一度損なった健康はすぐに戻るものでもなく、この経験から4年ほど経つが未だに体力は完全には回復できていない

さて、いかに辛かったかを長々と綴ってしまったが、ともかくその療養期間に「一度死んだと思って、今後は180度生き方を変えよう」と思うに至った。

それからは心機一転し、遠ざけられる苦労は遠ざけ、苦手なものは怒られない程度最低限できるようになればいいやと力を抜き、無理せず得意を生かせる道を選んで歩むようになり、それで驚くほど人生が明るく豊かになった。

まぁ私の場合が極端すぎたのかもしれないが(笑)、そうやって人生が好転した実体験を踏まえ、若い方々には「苦労なんてわざわざ買いに行かなくてもあっちから勝手に来る時は来るんだから、『苦労は買ってでもしろ』なんて教えには従わなくていい。いつか苦労が勝手に降りかかってくるときに備えて今は自分をいたわっておけ」と言いたい。

 

とくに、持病があり、常に体の不調と折り合いをつけないといけない人なんかは、平常時ですでに健康な人よりもハードモード設定なので、苦労を買ってなどいたら負荷が大きすぎて壊れてしまう。周りが健康な人たちばかりだったらつい「自分も同じように頑張らなければ」と思いがちだが、もうすでに頑張っている状態がデフォなので他のところでは少々セーブしたほうが長い目で見ると長く走れるのだと思う。

 

繰り返しになるが、心配せずともこの先の人生、苦労はじゅうぶん用意されている。問題ない。それよりも大事なのは、ストレスから回復させる方法をいくつも見つけておくことだ。